空母ケストレルに戻った我々一行は、早速司令官室に呼ばれた。そこには既に、大統領とアンダーセン艦長をはじめ、ウォードッグ、ラーズグリーズ両隊の面々が集まっていた「ご苦労だった。まあかけてくれ」大統領が椅子を勧める。「まず、懸念されていたMOPの開発状況だが、ディレクタスの研究開発施設での組立は終了している。現在ヴァレー空軍基地において最終評価試験を実施中だ。近日中には実用に耐える状態にできるとの答えをもらってある」よかった。これで核を封じ込めることができそうだ。俺はサンダーヘッドやブレイズたちと、ほっとして顔を見合せ微笑んだ。大統領が続ける「あと、我々が使用する機体に搭載してある火器管制装置とのシンクロが必要だそうだが、MOP受領を兼ねて君たちの中から数名を派遣してほしいとの要請があった。人選だが、艦長と私の独断で決めさせてもらったので悪しからず了承してほしい」珍しいことを言う。航空作戦の内容については、大統領は門外漢なのでおやじさんにほぼ任せっきりだったはずだが、今回に限って何故だろう?大統領から差し出されたメンバー票らしきメモを読んだおやじさんが、にっこりしながら大きく頷いた「大統領からお話があったように、MOP受領と機材の調整のためヴァレー空軍基地へ行ってもらう必要が生じた。機体に関しては、作戦に使用するFB-22を既にフェリーさせているそうだ。こいつに搭乗してもらうパイロットも今発表しておこう。ウォードッグ隊はチョッパーが前席だ。サンダーヘッド、君には申し訳ないが今回もお守りを頼む」この人選に関しては問題ない。というか、他に選択の余地がないというのが現状なのだが「おやじさん、俺のお守りとはひどい言い種ですよ、最近は俺がお守りすることも多いんですから!なんせこいつったら…」そう言って先日の『あっかんべー』の件を暴露してやった。室内が笑いに包まれる。当の本人は真っ赤になってしどろもどろの言い訳をしだす「あれはだな、前席の機長の命令であるからして軍人は命令の遂行を本分とするわけだからして…」イプシュタインが珍しく突っ込みを入れる「何わけのわかんない言い訳してんですか!あっかんべーしたんでしょ?敵のパイロットも唖然としたでしょうね!それにその正体を知ったら2度びっくりですよ、なんせストーンヘッドがやったわけだから!」ナガセも呆れたように「チョッパーならそれくらいのことはやるでしょうけど、まさか中佐がねぇ。朱に交わるとなんとやらの見本だわ!」グリムも「中佐、気持ち良かったでしょ?」「うん、確かに気持ち良かったかも…」サンダーヘッドも満更でもないようだ。いつもの真面目くさった表情はどこかへ消え失せ、皆にからかわれて照れながらも笑顔がこぼれている。それを見たおやじさんが「ほう、彼もあんな表情で笑える男になったんだね、あの堅物がずいぶん良い方向に変わったもんだ」感心したように俺に話しかけた「まさに朱に交わればってやつですよ。まさかあそこまでやるとは思いませんでしたけどね!」そう言って俺とおやじさんは笑い合った「さて、サンダーヘッドも仲間に打ち解けたようだし、ラーズグリーズ隊のFB-要員を発表しようか。こちらは前席をスノー少佐にお願いする。問題はバックシーターだが、君にとって懐かしい人に復帰してもらうことにした。アンソニー・エドワーズ少佐がリハビリを終える。君はセントヒューレット海軍病院へ彼を迎えに行ってもらうよ、アクスルも海軍病院には用事があるはずだから、一緒に行きたまえ、いいね?」スノーがガッツポーズで答える「了解しました、やつが来れば百人力だ!」アンソニー・エドワーズ少佐、海軍航空隊にこの人ありとうたわれた優秀なRIO。彼が後席に座ればひょっこパイロットも凄腕の撃墜王に変わるとまで言われた男だ。前の隊ではスノーと共に分隊長を勤めていた。だが、シンファクシとの戦闘で被弾ベイルアウトした際に頭部挫傷の重症を負った。一時は命を危ぶまれていたが、数度に及ぶ手術が成功してリハビリに入っていたのだ。同行するアクスルは、彼のアルコール中毒症を治療するのに大きな力となった女性が海軍病院の看護師として勤務しているので、立ち直った彼を見せてやれというおやじさんの親心だろう「さて、ヴァレーに出向してもらうメンバーだが、ブレイズ、チョッパー、ナガセの3名に行ってもらいたい。残りのメンバーにもディレクタスへ赴いてもらい、他の供与兵器の受領をお願いする。と、まあ任務の形を取るが、これは大統領から君たちへのささやかなご褒美なんだ。MOPが仕上がるまで数日はかかる見込みだし、我々の作戦に呼応するレジスタンスの準備が整うのにも10日前後かかる。だから、この間に君たちに束の間の休暇を楽しんでほしいとのことだ」休暇!大統領も味なことをしてくれる。でも俺たち搭乗員だけが楽しんでもいいのだろうか?それをマクガイアが口にした「我々だけが休暇をもらっていいのでしょうか?艦隊の将兵の支えがあってこその航空団です。彼らには休暇は与えられないのですか?」見上げた男だ。普通ならば自分たちに与えられた休暇を喜ぶところを、彼は艦隊将兵のことを気遣っているのだ。トリプルニッケルズの若手が彼に心酔していたのも頷ける「君の気持ちはありがたいが、心配には及ばんよ。艦隊の将兵には等しく半舷上陸を許可するつもりだ。心置きなく休養してくれ」アンダーセン艦長の言葉によって、マクガイアの心配も解消されたようだ。この計らいによって、俺たちは任務のついでとはいえ、束の間の休息を得ることになった。この休暇が、俺の今後の人生を変えるきっかけになることを、神ならぬ身の俺は知る由もなかった。

■1 大統領からの贈り物

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